逃げられるものならお好きにどうぞ。



「そんなに怒んなって。おれと椿の仲だろ? おれはただ、その子が椿にとってどんだけ意味のある子なのか、確かめようと思っただけで……」



男性の言葉が、そこで途切れる。

――何故なら黒瀬くんが、男性に向けて鋭い蹴りを繰り出したからだ。


正直動作が早すぎて、黒瀬くんが足を上げたことにすら気づかなかったし、男性の顔面横すれすれでピタリと蹴りの勢いを止めていることに、私は驚きを通り越して半ば呆然としてしまっている。



「……もういい。さっきから煩い。さっさと消えてくんない」



黒瀬くんが凄めば、長髪の男性は「おぉ、怖い怖い」とおちゃらけながら、両手を小さく挙げて降参のポーズをとる。



「それじゃあ、邪魔者は退散するとしますか。……オネエサンも、またね」



去り際に私にも手を振って、男性は立ち去っていった。