逃げられるものならお好きにどうぞ。



「世の中ねぇ、当たり前に、知らないことの方が多いんだよ。つまりわざわざ知らなくても……こっちに足を踏み入れなくとも、生きていけるってことさ」

「……どういう意味ですか?」



的を射ない言葉に、苛立ちが募っていく。

それらをぐっと押しとどめて静かに問い返せば、男性は薄笑いを浮かべてコテンと首を傾げた。



「つまり、知らない方がいいこともあるってこと。椿のやつ、君に何も話してないんだろ?」



そう言って、男性は何故か、開いていた距離を一気に詰めてくる。

反射で後退りながら、今更になって、素性もよくわからない男性と二人きりで話していたことに遅すぎる危機感を感じる。



此処から逃げるすべを考えていれば――今度は背後から、肩を掴まれた。