逃げられるものならお好きにどうぞ。



「さっきの全部、どういうことですか? ……何のために、私をホテルに?」



三メートルほど開いていた距離を一歩だけ詰めて問いかければ、男性はへらへらと笑いながら口を開く。



「あはは、まぁそう怒らないでよ。でも……結局見当違いだったのかねぇ。椿のやつなら絶対……んー、おれ、勘は鋭い方なんだけどなぁ」



意味の分からないことをブツブツと呟いている男性。

その口から聞こえた名前に、私は開いていた距離をまた一歩詰めて問いかける。



「黒瀬くんのこと、何か知ってるんですか?」

「ん? うん、知ってるよ」

「……黒瀬くんと、どういった関係なんですか?」

「それはねぇ……」



何故かそこで口を閉ざした男性は、私の目をじっと見て、どこか酷薄じみた微笑を浮かべる。