逃げられるものならお好きにどうぞ。



「っ、待って、黒瀬く…」



咄嗟に黒瀬くんを引き止めようと声を上げれば、美代さんに止められてしまった。



「ねぇ、私たち、デート中って分からない? どうしてあなたが此処にいるのか知らないけど……百合子ちゃんは今、お呼びじゃないのよ」



近づいてきた美代さんは、私の耳元でそう囁いて、直ぐに離れていった。

目で追えば、美代さんが、黒瀬くんの腕に抱き着いている姿が見える。


黒瀬くんはそれに抵抗するようなこともなく、二人で並んで歩いていて、その姿は――誰から見たって、お似合いの恋人同士だった。




私は、そのまま一人でパーティー会場を抜け出した。

さっき身支度を手伝ってくれたお姉さんに声を掛けて、ドレスを脱ぎ、一言お礼を告げてホテルを後にする。



何だか、胸の中が色んな感情でごちゃまぜになっていて、苦しい。


でも、この苦しさの一番の理由は、きっと……。




「……黒瀬くんの、嘘つき」




誰に届くわけでもないと分かっていながら、ポツリと呟いてみる。


脳裏で笑っている彼の姿を思い出しながら――ネオンが煌めく街中を、私は一人で歩いた。