逃げられるものならお好きにどうぞ。



とりあえず会場の端っこの方に移動して壁の花に徹しながら、周囲を見渡してみる。

もしかしたら、この中にあのバーで会った男性がいるかもしれないと思ったからだ。


だけどいくら見渡しても、あの黒髪ロングのお兄さんの姿は見えない。


それどころか、よくよく周囲の人を観察してみれば、一度はテレビで目にしたことのある有名人や、見るからにお金持ちそうな人がそこら中に溢れていることに気づいてしまった。



これが一体何のパーティーなのかは知らないけど、私が此処にいることが、あまりにも場違いすぎる。

見知らぬ人に出してもらったお金で食事をするのも何だか怖いし、もうホテルの人に声を掛けて帰ってしまおうか。


そんなことを考えていれば、聞き慣れた声が鼓膜を揺らした。




「お姉さん?」

「……黒瀬くん?」



――えっ。どうして此処に、黒瀬くんが?



チャコールグレーのタキシードに身を包んだ黒瀬くんと、その隣には――黒いドレスを身に纏い、美しく着飾った美代さんの姿があって。


目を瞠って驚いたような表情をしていた黒瀬くんだったけど、直ぐにその顔に笑顔を浮かべて、そして――何も言わずに、私に背を向けてしまう。