逃げられるものならお好きにどうぞ。



「そうなんですね。あなたみたいな素敵な人に思われる男性が、羨ましいです。……分かりました、引き止めてすみません。ですが一杯だけでも付き合ってくれませんか? 連絡先も聞きませんし、本当にこれきりで諦めますから」



真摯な瞳に見つめられて、私はおずおずと腰を下ろす。



「これ、さっき用意してもらっていたんです。あなたにと思って」



男性が、自身の手元のあったグラスをこちらに手渡してくれる。

受け取ったグラスはじんわりと温かくて、レモンの輪っかが浮かんでいる。



「ホット・ウイスキー・トディです。寒い冬にぴったりでしょう?」

「……ありがとうございます」



せっかく用意してくれたのだし、これだけ飲んで、そうしたら帰ろう。


一口飲めば、シロップの優しい甘さが口の中いっぱいに広がる。

身体がじんわり温かくなるのにホッと息を吐きながら、コクコクと飲み進めていく。



――だけど、どうしてだろう。急に眠気が……私今日は、そこまで飲んでない、はず、なのに……。



男性が何か言っているのが聞こえてきたけど、私の意識は、そこでプツリと途切れてしまった。