逃げられるものならお好きにどうぞ。



三奈にもう帰ろうと伝えるため振り向けば、何故か含みのある笑顔を浮かべている彼女は、無言でグッと親指を立てている。


かと思えば「それじゃあ、後はお若いお二人で」と意味の分からないことを言って腰を上げようとする。



「ちょっ、ちょっと三奈、どこ行くの!?」

「どこ行くのって、先に帰るに決まってるでしょ」

「何で!」

「何でって……どう見たって彼、あんたに気があるじゃない。ふふ、良かったじゃない百合子。これであんたにも春到来よ。やだ、もしかして私って……恋のキューピット?」



小声で話し続けていれば、「あの、どうかしましたか?」と男性に声を掛けられる。



「それじゃあ、私はこれで」



意味ありげなウィンクを一つ落とした三奈は、本当に一人で店を出て行ってしまった。

残された私たちの間に、何とも言えない、気まずい沈黙が流れる。