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俺は施設で育った。実の両親に捨てられたからだ。
親の顔なんてほとんど覚えていないし、今更会いたいとも思わない。
だけど、自分は“捨てられた不要な存在だ”という認識が、幼い頃から俺の中にずっと在り続けて、その事実を不意に思い出しては、やるせない気持ちにさせられた。
「――椿くんっていうのね。綺麗な花の名前ねぇ」
施設にいた頃、不愛想な俺を気にかけて、可愛がってくれた女性がいた。
鈴奈さんという名前だ。
かなりの高齢で、笑うと目尻にくっきりと深い皺ができる。その表情はいつだって優しくて、そばにいると安心できた。
そんな鈴奈さんに、名前を褒めてもらった記憶がある。
だけど俺は、自分の名前があまり好きではなかった。
施設の庭にも、椿は咲いていた。
寒い冬の日、椿の花がまるごとポロリと落ちる様子を見たことがあったけど、それがとても、寂しく感じたからだ。
だけど鈴奈さんは、花にはそれぞれ“花言葉”というものがあるのだと教えてくれた。
椿の花には、“控えめな優しさ”“誇り”などという意味があって、俺にぴったりだと思うと、やっぱり優しい顔で笑っていたのを覚えている。



