“お姉さんと出会う前なら、言ってたかも? でも今はさ、不思議とそういう気持ちにならないんだよね。何でだろ”
“それじゃあ理由が分かったら、お姉さんにも教えてあげるね”
――あの夜のことだ。記憶をなくしている椿くんが、冗談めいた口調で甘い言葉を囁いてきたから。
……誰にでも言っているのかなって、私が妬いちゃったんだよね。
「記憶があってもなくても、思うことは同じだったよ。俺が触れたいと思うのも、キスしたいと思うのも、優しくしたいって思うのも、そばにいたいと思うのも……俺が、百合子さんを愛してるから。俺には百合子さんだけだし、百合子さんにも、俺だけを見ていてほしい。他のことなんて全部投げ捨ててもいいと思えるくらい、俺にとっては百合子さんが、この世界で何よりも大切な存在なんだ」
「……うん。私にとってもね、椿くんはすごく大切な存在だよ」
悲しいわけでもないのに、どうしてか、涙がこみ上げてくる。
これはきっと、安堵と嬉しさからくるものだ。
それをグッと堪えて笑みを返せば、椿くんの顔が近づいてくる。
そっと目を閉じて、唇に落とされた甘く柔らかな感触を受け入れる。



