逃げられるものならお好きにどうぞ。



「……その子をそれ以上痛めつけるのは、止めといた方がいいと思うよぉ? アンタたち、殺されるから。――悪魔よりもおっかな~い奴にね」

「は? 何言ってんだお前」



――あれ? どこかで聞いたことのある声だ。

首を曲げて、もう一度しっかりバー店員の顔を見ようとすれば……。



「おい、部外者は立ち入り禁止だ!」

「きゃあ!」

「ああ? 誰だよてめぇ!」



出入り口付近が急に騒がしくなった。

私を抑えていた男たちも手を離して、そちらに視線を向けている。

そして、そのまま様子を見に行ってしまった。


出入り口は一つしかないし、私が逃げられるはずもないと分かっているからだろう。特に拘束などはされなかった。

この騒ぎに乗じて、何とか逃げ出さないと……。



「百合子ちゃん、大丈夫そ?」

「え?」



頭上から聞こえてきた、囁くような声に、そっと顔を上げた。

というか、どうしてこの場に私の名前を知っている人がいるのだろう。



「……って、萌黄さん!?」



バー店員だと思っていた男性は、よく見れば萌黄さんだった。