逃げられるものならお好きにどうぞ。



「お待たせしました。こちら、エル・ディアブロになります」



緊迫した空気に似つかわしくない、軽やかな声が耳に届いた。


ソファに押し倒されたまま視線を向ければ、バー店員らしき男性がカクテルを届けにきたようだ。

グラスには真っ赤な液体が注がれている。



「あ? 俺らは頼んでねぇぞ?」

「あぁ、こちらはサービスになります」

「へぇ、そんじゃあ有難く受け取っておくか」

「はい。……ちなみにお客様方は、こちらのカクテルに込められた意味を知っていますか?」

「あぁ? 意味だ?」

「はい。エルディアブロはスペイン語では“悪魔”という意味になります。カクテル言葉は“気をつけて”」

「兄ちゃんよぉ、今俺らは取り込み中なんだよ。見て分かるだろ? 御託はいいから、さっさと引っ込みな」

「おっと、これは失礼。ですが……私は忠告しましたからね」



三つのグラスを卓に置いたバー店員の男性は、にこりと笑って立ち上がる。