逃げられるものならお好きにどうぞ。



「嬢ちゃん」



店の奥からやってきたのは、皇さんだった。

姿が見えないと思っていたけど、話はしっかり聞かれていたらしい。

形のいい眉は顰められ、険しい顔をしている。



「慎二さんも止めてください! 一人で行くなんて危険だって!」



美代さんが語気を荒げた。

皇さんは黙り込んでいたけど、ゆったりとした足取りで私たちのそばまで歩み寄ってくる。

――切れ長の瞳は、私を真っ直ぐに見据えていた。

私の心の内を見透かそうとしているようにも見えるし、どこか試されているようにも思える。



「……指定された場所には、これから向かうのか?」

「はい。そのつもりです」

「……分かった。なら、俺が近くまで送り届けてやる」

「え、慎二さん!?」



美代さんは「どうして」と困惑しているようだけど、皇さんの表情を見てグッと言葉を飲み込む。



「美代、大丈夫だ」

「……分かりました。慎二さんがそういうなら、私はこれ以上何も言いません。でも、百合子ちゃん。身の危険を感じたら、直ぐに逃げること。危ない真似だけはしないこと。絶対に、無事に帰ってくること。……それだけは、約束してちょうだい」

「……はい。約束を守れるように、善処します」

「……ふふ。善処しますって返してくるところが、百合子ちゃんらしいわね」



強張っていた美代さんの表情が、少しだけ緩んだ。