「だいぶ前なんですけど、一緒に飲みに行った時、珍しく椿が酔っぱらった時があったんですよ。その時、言ってたんです。“自分のせいで、周りの奴らは離れていくんだ”って」
「それって、どういう意味?」
「俺も詳しくは分からないですけど……椿の奴、両親のどちらからも面倒は見られないって言われて、施設行きが決まったらしいです。それ以来、親御さんのどっちも、一度も顔を見せにきたことはないって言ってました。その時は何てことない風に言ってましたけど、当時は寂しい思いをしてたんじゃないかなって……だから、人と深く関わるのを怖がってんじゃないかなぁ、なんて。俺は思ってたんすよ」
沈んだ表情で話していた田中くんだったけど、二ッと口角を上げて微笑む。
「まぁ俺は、そんなこと気にしないで絡んでましたけど! 椿、ああ見えてめちゃくちゃ良い奴だって知ってるんで」
「……うん、そうだね」
「だからあの時、結構マジで驚いたんですよ。あの椿が遅刻した相手のことを楽しそうに待ってたってことにもですけど、何より、あんな優しい顔で笑えるのかって。正直、ちょっと香月さんに妬いちゃいそうになりましたよ」
ツンッと唇を尖らせた田中くんだったけど、またすぐに相貌を崩して、柔らかく笑った。
コロコロと変わる表情豊かなところを見ていると、職場の後輩を思い出す。
裏表を感じないところとか、素直そうなところとか……心根の優しい子なんだろうな。



