「皇さんに、宣戦布告でもしておいた方がいいかな」
「え?」
「さっき皇さんに、俺には関係ないって言ったけど……それ、撤回するよ」
「……どうして?」
「だってお姉さんのそんな可愛い顔、誰にも見せたくないし。っていうか、お姉さんが他の男に笑いかけたり、触れ合ったり……そういうの想像するだけで、相手の男を殺したくなる」
「それって……」
――椿くんも、嫉妬してくれてるってこと? 殺すは、さすがに物騒すぎるけど……。
「だからさ。待っててくれるっていうなら、俺が思い出すまで、お姉さんは俺のことだけ見ててよ。余所見しちゃダメだからね?」
私の髪をそっと撫でてくれる椿くんの手は、鼓膜を揺らす声は、記憶をなくす前と変わりないくらい、優しくて甘ったるい。
艶やかな笑みに釘付けになっているうちに、椿くんは今度こそ背を向けて行ってしまった。
額を手で押さえながら、ついさっき触れた熱の感触を思い出せば――胸の中が、じわじわと温かいもので満たされていく。
(……言われなくても、私はずっと、椿くんしか見てないよ)
緩む口許をそのままに、小さくなっていく後ろ姿を見送っていれば、カツカツとヒールがアスファルトを叩く音が聞こえてくる。



