逃げられるものならお好きにどうぞ。



「……そうだなぁ」



椿くんは視線を上に向けながら「うーん」と考え込む。



「お姉さんと出会う前なら、言ってたかも? でも今はさ、不思議とそういう気持ちにならないんだよね。何でだろ」

「……そんなの、私だって分かんないよ」



そんなこと言われたら、記憶がなくても、椿くんの中に私を思う気持ちが残っているんじゃないかって……期待しちゃうじゃん。



「それじゃあ理由が分かったら、お姉さんにも教えてあげるね。それに、今はお姉さんのことを思い出すので忙しいからさ」



フッと息を漏らすように優しく笑った椿くんの手が、私の頬に触れる。



「隙あり」



私の額にそっと口づけた椿くんは、意地の悪い目で顔を覗き込んでくる。



「あれ? お姉さん、顔が赤いよ?」

「っ、キスはしないって言いました!」

「だって、お姉さんが寂しそうな顔してるから」

「さ、寂しくなんて……」



図星を突かれたような気持ちになって、思わず口籠ってしまえば、椿くんはまた「うーん」と考え込むように声を漏らす。