「……椿。嬢ちゃんのこと、しっかり家に送り届けろよ」
「はいはい、分かってるって。皇さんの大事な人を傷つけたりしないよ」
「え、あの、別に私と皇さんは、そういう関係じゃ……」
――多分椿くんは、勘違いしている。そう思って否定しようとした言葉は、扉の閉まるベルの音でかき消されてしまった。
だけど今の椿くんは、私と皇さんとの関係に然して興味はないのだろう。
ゆったりとした足取りで歩きながら、別の話題を振ってくる。
「お姉さんってさ、仕事は何してるの? 好きな食べ物は?」
「え? ……急に何ですか?」
「言ったでしょ。お姉さんのこと、色々教えてって。あとその敬語止めてよ。何か違和感あるから」
「……仕事は普通にOLやってて、好きな食べ物は……プリンとかケーキとか、甘いものかな」
「へぇ、そっか。それじゃあ今度、一緒にカフェでも行こうよ。お姉さんのおすすめのケーキ、教えてほしいな」
さらりと次の会う約束を取り付けてきた椿くんを見上げれば、左頬が赤く腫れてきていることに気づいた。口の端も切れている。



