「お姉さん、びしょ濡れじゃん。風邪引いちゃうよ?」
「……」
「……ねぇお姉さん、今空いてる? ちょっと付き合ってほしいんだけど」
今まで何処に居たのとか、心配していたとか、無事でよかったとか。
言いたいことはたくさんあったはずなのに、いざ椿くんを前にしたら、何の言葉も出てこない。
そっと手を掴まれ、導かれるままに連れてこられた場所は、艶めかしいネオンの光が輝くホテル街だった。
そこまで来てようやく、私は口を開くことができた。だけど紡ぐ声は、自分の意思とは関係なく震えてしまう。
「ねぇ、椿くん……ふざけるのもいい加減にしてよ。私、すっごく心配してたんだよ」
「……やっぱり俺、お姉さんとどこかで会ったことあるっけ? んー、こんな綺麗なお姉さんと一度会ったら、忘れるはずないと思うんだけどなぁ。まぁ正直、俺のタイプではないんだけどね」
初めて会った日、ホテルで似たような台詞を言われたことを思い出しながら、胸の中を渦巻く不安に押しつぶされそうになる。



