逃げられるものならお好きにどうぞ。



「小林の気持ちには、応えられない。私には、大切に思う男性(ひと)がいるから」

「……それって、あの時、隣にいた奴だろ?」

「うん」

「百合子、騙されてんじゃねーの? いかにも遊んでそうな男だったじゃん」



クリスマスマーケットで対面した時のことを思い出しているのだろう。小林は眉根をグッと寄せて、椿くんに対して感じたイメージを吐き出す。

その声には棘があって、良い印象を抱いていないことは明らかだ。でも……。



「私は彼のこと、信じてるから。彼が私に対していつだって誠実で、真っ直ぐ気持ちを伝えてくれる人だってことは、私が一番よく分かってるから――だから、大丈夫」



誰に何と言われたって、私の気持ちが変わることはないだろう。

私がこれから先もずっと隣にいてほしいと、一緒に生きていきたいと……そう願う人は、椿くんだけだから。


笑って言えば、そんな私の顔を見た小林が、目を瞠ったのが分かった。



「それじゃあ、もう行くね。飲み会、楽しんで」



この場に背を向けて、今度こそ足を踏みだした。




「……あんな顔で、笑うんだな」


ポツリと落とされた、切なさを孕んだ声が、私の耳に届くことはない。



小林はもう、追いかけてはこなかった。