逃げられるものならお好きにどうぞ。



「あ、小林」

「よぉ。つーか、何で百合子もいるわけ? 俺、聞いてないんだけど」



小林は、短く切り揃えられている前髪を指先でいじりながら、どことなくソワソワしているように見える。



「百合子ね、ちょうど帰省してるんだって。ばったり会ったとこなの」

「ふーん」

「実は小林もね、飲み会のメンバーの一人なのよ。そういえば百合子、確か小林と仲良くなかったっけ?」



小林と話していたゆっちゃんがこちらに振り向いて、笑顔で尋ねてくる。

その瞬間、喉元まで嫌な感情がせり上がってきた。だけどそれをグッと押し込めて、小さく笑う。



――ゆっちゃんに、悪気なんてないことは分かってる。でも、それでも……小林とのことで散々揶揄われて、男子から話のネタのようにもされていたあの頃の記憶は、やっぱり私にとって、苦い思い出でしかなくて。

嘘でも頷きたくなんてなかった。