「……うん、元気だよ。だってせっかく椿くんが地元まで遊びにきてくれたんだから。楽しい思い出、いっぱい作ろうね」
「そうだね。でも、張り切り過ぎて無茶しないように」
椿くんが、私の片頬を軽く摘まんでくる。
「大丈夫。分かってるよ」
「本当かな?」
「椿くんこそ、お母さんたちの前で変なこと言ったりしないでね」
「んー、それはどうかな?」
「……椿くんって、緊張したりしないの?」
「ん? これでも結構緊張してるよ?」
「本当に? 緊張してるようには全然見えないけど」
「まぁ、気にいってもらえるように頑張るつもりではいるけど……万が一ご両親に許してもらえなかったとしても、その時は百合子さんを攫っていけばいい話だし」
サラリと誘拐発言をされてしまった。でもお母さんもお父さんも、椿くんとのお付き合いを反対するなんてことは絶対にないだろうな。
むしろ「こんなイケメンを捕まえてくるなんて、百合子ってばやるじゃない!」とか言って、お母さんは喜ぶと思う。
そんな話を続けていれば、実家近くの停留所に着くというアナウンスが流れてくる。
「椿くん、次で降りるよ」
「ん、了解」
ついさっきまで胸の中に巣食っていた小さな不安は、椿くんのおかげで、いつの間にか綺麗さっぱり消えてしまっていた。



