逃げられるものならお好きにどうぞ。



「ふっ、まぁ反省してるならいいよ。今度からは本当に気をつけてね」

「うん。……でも実は、林くんを部屋に通してからの記憶が全然ないんだよね」

「百合子さん、疲れて寝ちゃったんじゃないの? その後輩くんが百合子さんの部屋に入って、五分後くらいかな。俺、廊下ですれ違ったよ?」

「え、本当に?」

「うん。あと一分でも出てくるのが遅かったら、部屋に突入しようと思ってたんだけど……彼、命拾いしたね」



どうやら林くんは、あの後すぐに部屋を出ていったみたいだ。やっぱり、体調が悪かったのだろうか。


一瞬、もしかして椿くんが林くんに絡んだんじゃ……と疑いそうになったけど、五分後には廊下ですれ違ったと言っているし、まさか椿くんも、何もしていない林くんにちょっかいをかけようだなんて思わないだろう。


それから、椿くんに仕事はどうだったかと聞かれ、昨日の研修や今日の打ち合わせが上手く纏まったことなんかを話しながら歩いていれば、突然、足を止めた椿くんが振り返った。



「椿くん、どうかした?」

「……ううん、何でもないよ」



真顔で後方をジッと見つめていた椿くんだったけど、すぐに視線を前に戻して、歩き出す。

私もチラリと背後に視線を向けてみたけど、特に気になるものは見つけられなかった。