逃げられるものならお好きにどうぞ。



「香月先輩、夜分にすみません」



扉を開ければ、そこに立っていたのは林くんだった。

林くんもすでにシャワーを済ませたのだろう。その黒髪はまだ少しだけ湿っている。



「全然大丈夫だよ。どうかしたの?」

「その、実は……香月先輩に、相談に乗ってもらいたいことがあって」



その言葉で、数時間前、思い詰めたような暗い表情をしていた林くんを思い出す。



「うん、分かった。私でよければ話を聞くね」

「っ、ありがとうございます」

「それじゃあロビーにでも移動しようか」

「あの、よければ、このまま香月先輩の部屋にお邪魔させてもらえませんか?」

「え? いや、さすがにそれは……ちょっと無理かな」



椿くんにも警戒心を持つようにって言われたし、林くんにその気がないとしても、いい年をした男女が密室に二人きりは良くないだろう。

そう思ってはっきりと断ったけど、意外にも林くんは食い下がってきた。