逃げられるものならお好きにどうぞ。



「え、っと、この車は?」

「ウチの車だ」

「ウチの……?」



萌黄さんは慣れた様子で助手席に乗り込んでしまった。

そして、美代さんの肩を抱いた皇さんが後部座席に乗り込む。


そういえば皇さんはヤクザの若頭だったと今更ながらに思い出しながら、その背中に続こうと思ったけど、後ろから手を掴まれ引き止められる。



「百合子さん、気をつけて帰ってね」

「うん。車で送ってもらうし、大丈夫だよ」

「……それと、この前言ったこと、忘れてないよね?」

「この前言ったことって?」

「男に対して、もっと警戒心を持ってってこと」



そう言って、わざとリップ音を響かせるようなキスをしてくる。



「仕事が終わったら、また連絡するね」



椿くんは私の頬をするりと撫でると、名残惜しそうに手をはなして、店内に戻っていった。



「嬢ちゃん。もう出るが、大丈夫か?」

「……あ、すみません! 今乗ります」



椿くんが消えていった扉を呆けたまま見ていれば、皇さんに呼びかけられる。

慌てて車内に乗り込んで「お願いします」と頭を下げた。