逃げられるものならお好きにどうぞ。



***


「百合子さん、家まで送ってあげられなくてごめんね」

「ううん、大丈夫だよ。仕事頑張ってね」



今日はシフトの関係で、この時間帯はマスターと椿くんの二人しかいないらしい。


今回は皇さんが奢ってくれるとのことで、萌黄さんはご機嫌に鼻歌をうたいながら外に出ていった。

その後ろを、へべれけの美代さんに肩を貸した皇さんが続いていく。



――美代さん、泥酔した時の記憶は覚えているタイプだろうか? 皇さんに介抱されたことを喜ぶか、それとも恥ずかしがるか……うーん、後者な気がするから、美代さんにとっては覚えていない方が良いのかもしれない。



美代さんも歩ける状態じゃないし、会計をする前にタクシーを呼ぼうと思ったけど、皇さんがすでに呼んでくれたらしい。

なのでそれはお任せして店を出れば、目の前に停まっていたのは想像していたタクシーではなく、黒塗りの高級車だった。