逃げられるものならお好きにどうぞ。



「優芽は相変わらず、ぽやんとしてるわね」

「ぽやんってどういうこと!? あ、でもね、聞いてよ! 私、正社員として採用してもらえることになったの!」

「そうなの? よかったじゃない」

「うん! それにね、同じ部署にすっごく頼りになる先輩がいるんだよ! 百合子先輩っていうんだけどね、優しいだけじゃなくて可愛くて美人だし、私の憧れなんだぁ」

「……へぇ。ゆりこ先輩、ね」



姉である憂美は、どこか含みを持った顔で笑う。

しかし優芽はそのことに気づかないまま、話を続ける。



「今度ね、百合子先輩と一緒に出張に行けることになったの! いっぱい勉強させてもらうんだ!」

「そうなの? その先輩に迷惑かけないように、しっかり頑張るのよ?」

「うん、分かってるよ!」



そこでお冷を持ってきた店員に二人分のケーキセットを頼んで、話題は最近優芽が好きなアニメの話へと移っていった。


憂美はうんうんと相槌を打ちながら、ついさっき、久し振りに姿を見た年下の男のことを思い出していた。

――見たこともないような優しい顔で、隣にいる女性に笑いかけている姿を。