「百合子さん、こっち向いて」
考え込んでいれば、椿くんに手を引かれる。
顔を上げれば、額に優しいキスが降ってくる。
「椿くん?」
「……ごめん、不安にさせたよね。お世話になった人っていうのは本当で、ただ……その人たちの中でも、あの人は、すごく優しくしてくれた人だったんだ。だから、少しだけ思い出しちゃっただけなんだよ」
「……うん、そうなんだね」
「でも、あの人に対して特別な感情なんて一切持ち合わせてない。それは本当なんだ。……信じてほしい」
椿くんは不安そうに瞳を揺らしながら、私の返事を待っている。
「……うん、分かった。私は椿くんの言葉を信じるよ」
こんなに真っ直ぐ思いを言葉で、態度で伝えてくれる椿くんのことを、信じないはずがない。
椿くんはすごくカッコいいし、女の人にモテることなんて分かり切っているから、これから先も、こんな風に不安になることだってあると思う。
だけど私は、まず一番に、椿くんの言葉を信じたい。信じられる私でいたい。
私の返事を聞いて、安心した顔で笑った椿くんに、手をとられる。
その手をお互いにキュッと握り合って、近場のカフェに向かうため足を踏みだした。



