「……俺さ、あの時は色々あって、かなり荒れてて。あの日もそこらのチンピラと喧嘩した帰りだったんだよね。多分、自暴自棄になってるところもあったんだ。もう色んなこと全てが、どうでもよくなってた」
「……うん」
「それなのに百合子さんは、怪我してるからって見ず知らずの俺にお節介まで焼いて、無邪気に話しかけてきてさ。何か分かんないけど、身体の中に在った憑き物が落ちてくみたいに、黒いドロドロが解けていって……ウジウジしてるのが馬鹿らしくなって、気づいたら自然と笑ってたんだよね」
別れ際、あの時の男の子がどんな顔をしていたのか、はっきりとは思い出せないけど……初めに目を合わせた時に感じた怖いって気持ちがなくなっていたことだけは、覚えている。
「百合子さんが純粋に俺のことを心配してくれて、嬉しかったんだよ。ありがとう」
「……うん。どういたしまして」
――黒瀬くんが女性の家を転々とすることを止め、本格的にバーで働き始めたのは、その直ぐ後だったらしい。
そして私たちは、あのお店、“Bar curación”で出会った。



