逃げられるものならお好きにどうぞ。



「百合子さんの前で余計なこと言わないでくれる?」

「何よ。事実じゃない」



私はもう知っているから今更だと思うんだけど、黒瀬くんは黒い笑みを浮かべて、美代さんたちに突っかかる。

ああ、また言い合いが始まってしまった。脱線してしまった旅費についての話は、また時間を改めて、黒瀬くんに抗議する必要がありそうだ。



「ったく、アイツらは……。まあ旅費のことは、また椿と相談すればいいだろ。とりあえず、せっかく京都まできたんだ。歩き回るのは無理にしても、あと二日、どっかで二人のんびり過ごせばいいさ」

「……はい。そうですね」



三人のやりとりを横目に、皇さんと顔を見合わせて笑っていれば、気づいた黒瀬くんがムッとした顔をしてこちらに振り向く。



「ちょっと皇さん。俺が目を離した隙に百合子さんにちょっかいかけるの、止めてくれる?」

「ハハッ、ちょっかいをかけてるつもりはないんだが……横から搔っ攫われたくなかったら、余所見してねーで、ちゃんと見ておくことだな」

「……言われなくても、そうするつもりだよ」



黒瀬くんの声が、若干低くなった。

二人の間で火花が散った気がしたけど……それは勘違いかと思うくらいに一瞬のことだった。