逃げられるものならお好きにどうぞ。



「椿も目ぇ覚ましたんだな」

「何よ、全然元気そうじゃない」

「目覚めて一番に百合子さんの顔を見れたおかげでぐんぐん回復してたけど、どっかの馬鹿のせいで、たった今元気がなくなったところだよ」

「あら、それなら私に感謝しなさい。私が百合子ちゃんに、椿の面倒を見ておくように言ったんだから」

「あー、はいはい。ありがと~、美代さん」

「心がこもってない!」

「いった! 俺、一応怪我人なんだけど?」



後頭部を思いきり叩かれた黒瀬くんは、不服そうに唇を尖らせて文句を言っている。

だけど美代さんは、黒瀬くんの言葉を華麗にスルーして、持ってきたお盆を私に手渡してくれる。



「はい、百合子ちゃん。お腹空いてるでしょ?」

「わ、美味しそう……! ありがとうございます。正直、お腹ぺこぺこだったんです」

「食欲があるなら大丈夫そうね。ほら、いっぱい食べなさい」



お盆に目を落とせば、湯気を立てたあさりのしぐれ煮茶漬けに、海老や山菜の天ぷら、添えられた小鉢にはお漬物も入っている。

美代さんが旅館の人に頼んで用意してくれたんだろう。見ているだけでも、お腹の虫がくぅっと鳴ってしまう。