逃げられるものならお好きにどうぞ。



「ちょっと待ってね。確かポーチに絆創膏が入ってたはずだから」



持ってきていたポーチから絆創膏を取り出して差し出せば、素直に受け取ってくれた黒瀬くんは、それをまた私に差し出してきた。



「これ、百合子さんが貼ってくれる?」

「あ、自分じゃ貼りづらいよね。うん、もちろん」



剥離紙をはがした絆創膏を、小さな切り傷のある人差し指の付け根あたりにぐるりと巻き付ける。



「はい、出来たよ。……って、」



顔を上げれば、黒瀬くんと目が合う。伸びてきた前髪が目元にかかって陰を作っているけれど、そこから覗く黒曜石の瞳は、私をジッと見下ろしている。



「ありがとう、百合子さん」

“ありがとう、お姉さん”



黒瀬くんが、嬉しそうに笑う。

その表情が、声が。いつの日かの誰かと重なった。