逃げられるものならお好きにどうぞ。



「でも……誰かのためにあんなに必死になってる椿なんて、初めて見たわ。百合子ちゃんってば、本当に大切にされてるのね」



眠っている黒瀬くんを見て、優しい顔で微笑んでいた美代さんは、私と目が合うと茶目っ気たっぷりのウィンクを一つ落とした。



「あの、黒瀬くんの容態は……」

「背中を刺されたんだけどね、そこまで傷も深くなかったみたい。安静にしておけば大丈夫よ」

「そう、ですか。……はぁ、良かった……」



思わず、安堵の息が漏れた。

黒瀬くんの顔をまじまじと観察してみるけど……うん、顔色も悪くなさそうだ。美代さんの言う通り、命に別状はないのだろう。