逃げられるものならお好きにどうぞ。



「百合子ちゃん、目が覚めたのね……!」



――どうやら私は、悪い夢を見ていたらしい。

視界に飛び込んできたのは、見覚えのある木目の天井を背景にして、心配そうな面持ちをしている美代さんだった。



「全くもう、急に倒れるからびっくりしたじゃない。心配かけさせないでよ」

「美代さん……。あの、此処は……?」

「此処は旅館よ」

「旅館……っ、あの、黒瀬くんは……!?」

「隣、見てみなさい」



起き上がって美代さんの視線の先を辿れば、静かに寝息を立てている黒瀬くんが、隣の布団に横たわっている。



「本当は病院に連れていこうと思ってたんだけど、辛うじて意識を保ってた椿が、病院は嫌だってごねてね。だから知り合いの医者をこっちに呼んで診てもらったのよ。そのまま百合子ちゃんも一緒に診てもらったけど、手首の擦り傷以外に外傷は見られなかったって。他にどこか痛むところとか、気になるところはない?」

「はい、私は全然……大丈夫です」

「本当に? ……嘘をついても、私にはすぐに分かるんだからね」

「ほ、本当です」

「それなら良し」



満足げに笑った美代さんは、乱れている私の髪を軽く撫でて、整えてくれる。