「黒瀬くん……?」
黒瀬くんの名を呼べば、私を抱くその腕に力がこもる。
もう離さないと、言葉はなくとも、触れる温度で伝わってくる。
「百合子さん、俺…「っ、椿‼」
黒瀬くんが少しだけ身体を離したタイミングで、美代さんの鋭い叫び声が響いた。
次の瞬間に感じたのは、トンッ、というくらいの、小さな衝撃。
黒瀬くんがまた、私の方に倒れ込んできたからだ。
そろりと顔を持ち上げれば――黒瀬くんの肩越しに、狂気じみた笑みを湛えた糸目の男性と、目が合った。
「はは、ははっ……ハハハッ……! やってやった、やってやったぞ……!」
カラン、と、金属製の何かが地面に落ちた音が、鼓膜を揺らした。
黒瀬くんの背に回していた手に、生温かいものが付着したのが分かる。
いつの間にか震えていた右手をそっと顔の前に持ってくれば――私の手は、何故か真っ赤に染まっていて……。



