逃げられるものならお好きにどうぞ。



「はい、何でしょう?」

「よければ、道を教えていただきたくて……」

「あの、私も観光で来ているので、詳しいわけではないんですが……どちらに行かれるんですか?」

「此処に行きたいんですが、中々分かりづらくて。申し訳ないです」



男性がすまなそうな顔をしながら、手元のメモを私にも見えるようにと近づけてくれる。

私も一歩距離を詰めて、メモを覗き込むように見てみるけれど――そこには、何も書かれていない。白紙だ。



「あの、何も書かれていませんけ…「行きたいというよりは、用があるんですよ。――皇組の、若頭にね」



耳元で、囁かれる。


咄嗟に距離をとろうとしたけれど、口許をハンカチのようなもので押さえられてしまった。鼻腔を通り抜けていく、薬品の匂い。

ふらり、視界がぐらついて、倒れ込みそうになる。