逃げられるものならお好きにどうぞ。



「黒瀬くん。私、お手洗いに行ってくるね」

「うん、了解。俺は此処で待ってるから」



繋いでいた手をはなして、お手洗いに向かう。
少し進んだ所で振り返ってみれば、黒瀬くんは近くの柱に凭れ掛かって、スマホをいじっている。

そんな黒瀬くんのそばを通り過ぎていった女の子二人組は、黒瀬くんの方をチラチラ振り返って、何やら耳打ちし合っている。



(まぁ黒瀬くん、格好いいもんね。今なんて着物姿だから、いつにも増して色気だってあるし……遠目から見ても分かるくらい、オーラがすごい)



静かに佇んでいるその姿さえ、通り過ぎる女の子たちが振り向いちゃうくらいには絵になっているんだから――早く戻らないと、誰かに声を掛けられてしまうかもしれない。


私は急いでトイレを目指した。

着慣れていない着物に少しだけ手こずりながらお手洗いを済ませて、黒瀬くんのもとに戻るべく急ぎ足になる。



「すみません。少しお尋ねしてもいいですか?」



――だけど、トイレを出て直ぐのところで、声を掛けられてしまった。

スーツ姿の若い男性だ。糸目が特徴的で、優しそうな顔つきをしている。