逃げられるものならお好きにどうぞ。



「百合子さん、こっちこっち」

「待って黒瀬くん。そんなに急がなくても、神社は逃げないから」



京都旅行二日目。

朝食を済ませた私たちは、美代さんたち三人と旅館前で別れて、黒瀬くんと二人きりで京都を満喫中だ。


旅行前に約束していた通り、着物レンタルの店で着付けもしてもらった。

種類がたくさんあり過ぎてすごく迷ったけど、私は白地に薄紫色の花が描かれた着物を選んだ。黒瀬くんはシンプルな黒地の着物で、臙脂(えんじ)色の帯を締めている。


お互いに散々褒めちぎり合い、写真を撮った私たちは、その足で近場にある八坂神社に向かっていた。



「ごめんごめん。やっと百合子さんと二人きりで過ごせるって思ったら、嬉しくて。着物だと歩きづらいよね」



立ちどまった黒瀬くんは、はしゃいでいることに珍しく照れ臭そうな笑みを浮かべながら、手を差し出してくる。

その手をとって隣に並びながら、いつもよりゆったりとした足取りで神社に向かう。