「……はい。心配してくださって、ありがとうございます」
「いや。これ以上言うのは、それこそ本当の野暮ってやつだな。まぁ何かあったら、遠慮せずに俺のことも頼ってくれよ」
皇さんの大きな掌が、ポンと頭にのせられた。
頷いて返せば、満足そうに目を細めて、手を下ろす。
「そろそろ帰るか。椿のやつなんか、帰りがおせーって暴れてるかもしれねーからな」
「さすがに、暴れてはいないと思いますけど……そうですね。帰りましょうか」
私たちは、止めていた足を動かした。
――そんな二人の後ろ姿を、影からそっと見つめる人物がいた。暫くその場で佇んでいたが、グッと掌を握りしめると、静かにその場を後にする。
ジジッ、ジジジジッ――。
人気のなくなった細道で、切れかけている電柱の街灯が、耳障りなノイズ音を響かせている。
ひらりと舞い飛んできた一匹の蛾は、暫くの間、明かりの下を彷徨っていたが、最期には力尽き、黒い羽根を地面に散らした。



