逃げられるものならお好きにどうぞ。



「本当に、すごく素敵な部屋だね」

「うん、そうだね」



改めて室内を見渡してみれば、和洋室の客室は温かみの感じられる空間になっていて、二人で使うには十分すぎるくらいの広さになっている。

壁には何だか高そうな掛け軸なんかも飾られているし、黒瀬くんが良い部屋を予約してくれていたことが伝わってくる。


二人で落ち着いた色合いのカウチソファに腰を下ろせば、シンとした静けさが辺りを包み込んだ。

今までがすごく賑やかだったから、音のしなくなった空間に、ほんの少しだけ緊張してしまう。そんな空気の中で口火を切ったのは、黒瀬くんだった。



「ねぇ、百合子さん。前に俺が言ったこと、覚えてる?」

「え? ……何のこと?」

「温泉。一緒に入ろうって言っただろ?」



――そういえば。この旅館は客室露天風呂付きの部屋があって、私たちが今いるこの部屋が、まさにそうだったっけ。



「……そんなことも、言ってたような?」

「じゃあ、早速一緒に入ろっか」

「……え、今から!?」

「うん、今から」



立ち上がった黒瀬くんは着替えやらを準備し始めているけど、対する私は中々動き出せない。