「百合子さん、おかえり」
仕事を終えて真っ直ぐに帰宅すれば、出迎えてくれたのは、珍しく眼鏡をかけている完全オフモードの黒瀬くんだった。
グレーのダボダボのスウェットに黒のパンツというラフな格好だが、黒瀬くんが身に付けていれば、それでさえもすごくオシャレに見えてしまう。
……顔の良い人は何を着ていても様になるから、ズルいと思うんだ。
「ただいま。……黒瀬くん、今日は何時から仕事だったっけ?」
「今日は二十一時からだよ」
「そっか。それじゃあ夜ご飯も食べていくよね?」
「うん」
「よかった。今日はパスタにしようと思ってるんだ」
「ミートソースの?」
「あと、明太子のパスタも作ろうかなって」
「二種類も作ってくれるの? 贅沢だね」
黒瀬くんは細い見た目に反していっぱい食べてくれるから、私としても作りがいがあるのだ。
黒瀬くんは「百合子さんのパスタ、楽しみだな」と嬉しそうに笑っている。
――玄関前で待ちぼうけさせてしまったあの日から、こうして黒瀬くんが出迎えてくれることが増えた。
あの一件のすぐ後、黒瀬くんに合鍵を渡したからだ。



