逃げられるものならお好きにどうぞ。



「もう、それだけ? もっと何かないの?」

「何かって?」

「何かって、惚気よ惚気! 普段は優しい彼も、夜のベッドの上ではもう凄くてぇ、とか!」

「ぐふっ、ちょ、ちょっと三奈、声が大きい!」



思わず飲んでいたアイス珈琲を噴き出しそうになった。

咄嗟におしぼりを口許にあてて拭いながらジト目を向けるけど、三奈は私の視線なんて然して気にしていない様子で笑っている。



「……此処、一応職場に併設されてるカフェだってこと、分かってるよね?」

「もちろん知ってるわよ」

「それじゃあもう少し声、抑えて! 周りで誰が聞いてるかわからないんだからね……!」

「もう、百合子ってば相変わらず奥手ねぇ。それに、誰も私たちの会話なんて気にしてないから大丈夫よ」



三奈のサバサバした性格は好意的に思っているけど、こういう何でもかんでもオープンなところは、実はほんのちょっとだけ苦手だ。

三奈の言う通り奥手な私からしたら、いつだって羞恥心や周囲の目が気になる気持ちが勝ってしまうから。