逃げられるものならお好きにどうぞ。



「百合子さんは、開けてないよね」

「うん。興味はあるんだけど……私も痛そうだなって思って、中々開けるまでには至らなくて」

「それじゃあ、いつか開けたいって思ったら教えてよ。俺がやってあげるから」

「えぇ、だって黒瀬くん、自分でやったら痛かったんでしょ? ちょっと怖いんだけど」

「あはは、大丈夫だよ。……多分俺、上手いと思うから」

「本当かなぁ」



そんな会話をしながら、私が作ったチョコを食べて「美味しい。今まで食べた中で一番美味いよ」と幸せそうな表情を見せてくれた黒瀬くんに、頑張って作ってよかったと、安堵の笑みを漏らした。



あまりにも幸せな気持ちで満たされていて――だから、黒瀬くんが言った“多分”の言葉の裏に隠された意味には気づかないまま。

黒瀬くんに開けてもらうなら、少しくらい痛くても我慢できるかなぁ、なんて。



本当は黒瀬くんの耳に誰がピアスの穴を開けたのか、そこにどんな思い出があったのか――そんなことまるで知らなかった私は、呑気にもそんなことを考えていたのだ。