逃げられるものならお好きにどうぞ。



「……恥ずかしい……」



私が勝手に勘違いして、一人で暴走してしまっただけだったんだ。

そもそものすべての元凶は、萌黄さんでもあると思うんだけど……話を鵜吞みにして突っ走る前に、黒瀬くんに電話の一本でも入れて確認すればよかった。


項垂れる私に気づいた黒瀬くんが、腰を折って私の頭を撫でる。



「……ごめんね。勝手に勘違いして、馬鹿とか、ひどいこと言って」



恥ずかしくて顔を上げたくないところだけど、それをグッと押しとどめながら黒瀬くんの目を見て謝罪する。

黒瀬くんは「そんなの気にしなくていいよ」と緩やかに微笑んだ。



「むしろ俺、嬉しかったよ。百合子さんが俺を心配して此処まできてくれたこともそうだし、皇さんに啖呵を切る百合子さん、めちゃくちゃ格好良かった。――ますます惚れ直したよ」



そう言って、私の額にそっと口づけた。



「ま、あいつには……後でよーく言い聞かせておくからさ」



黒瀬くんが言う“あいつ”とは、多分萌黄さんのことだろう。

黒い笑みを浮かべる黒瀬くんを見て萌黄さんの未来を悟ってしまった私は、彼の顔を思い浮かべて、心の中で合掌しておいた。



――こうして“しばらく会えない期間”はたったの一日もかからずに終わりを告げ、翌日、いつものように職場に迎えにきてくれた黒瀬くんの姿が見られたのだった。