逃げられるものならお好きにどうぞ。



「……私、別に可愛くないし」

「可愛いよ」

「……私より可愛い子なんて、世界にごまんといるよ」

「俺の中では、百合子さんが世界一可愛いからいいんだよ」

「……それは言い過ぎだよ。嘘くさい」



嬉しくて、でもすごく恥ずかしくて。

私は全然可愛くない、照れ隠しの言葉を口にしてしまう。



「あ、今のは可愛くないかな」

「……うるさい」



――さっきは世界一可愛いって言ったくせに。

少しだけアルコールが回った頭で不貞腐れ気味に拗ねていれば、覆い被さったままの黒瀬くんが顔を近づけてくる。



「……うそ。可愛いよ」



クスリと微笑んだ黒瀬くんに、耳元で囁かれる。

すらりとした指先が耳朶に触れて、少しだけくすぐったい。甘ったるい声が、鼓膜を震わせた。



――黒瀬くんから与えられる温もりは、言葉は……何だか麻薬みたいだ。もっと、もっとって、手を伸ばしたくなる。



唇に触れた優しいぬくもりに、私はそっと瞼を下ろした。

冷たかった黒瀬くんの身体は、いつの間にか熱く火照っている。


触れ合った箇所から伝わってくる体温の心地良さに、私は幸せな気持ちでいっぱいになった。