「はい。こんな時間だけど、珈琲でも大丈夫だった?」
「うん、ありがとう。……あれ、もしかして百合子さん、飲んでたの?」
「うん。缶チューハイ二本だけね」
テーブルに置いてあるアルコール缶を目にした黒瀬くんに問いかけられた。
マグカップを手渡せば、黒瀬くんはブラックの珈琲を一口含んでホッと息を吐いている。
――黒瀬くんの様子は、本当にいつもと変わらない。ということは、“あれ”に気づいたわけでもなさそうだ。
自分でも回りくどくて分かりにくすぎることをしたという自覚はあったから、気づかなければそれはそれでいい。……もし神様がいるのだとしたら、それは直接声に出して伝えなさいって、そう思われているのかもしれない。
「ねぇ、百合子さん」
しんとした部屋の中で、黒瀬くんの私を呼ぶ声が、鼓膜を揺らした。
そして次の瞬間――視界が反転し、何故か私は、黒瀬くんにソファの上で押し倒されていた。



