逃げられるものならお好きにどうぞ。



***


「あれ? 百合子さん、今日来るって言ってたっけ?」

「ううん、ちょっと用が合って立ち寄っただけだから。今日は直ぐに帰るよ」

「せっかくだし飲んでいけば? 俺も今日はまだ上がれないから、送っていけないし……」

「大丈夫。まだそんなに遅い時間じゃないし」



そう伝えて、持っていた紙袋を黒瀬くんに手渡す。



「これ、黒瀬くんに」

「これは……」

「ほら、クリスマスプレゼントのお返し。私、大したもの用意できなかったし」



――クリスマス・イヴ当日。

イルミネーションを見て帰ろうとしたタイミングで、黒瀬くんからクリスマスプレゼントを貰ったのだ。

ブラウン調の肌触りの良さそうなマフラーに、百合の花を形どったロジウムのネックレス。真ん中にピンク色のストーンが埋め込まれているもので、一目見て気に入ってしまった。

私の名前が“百合子”だからこれを選んだのだと、黒瀬くんは優しく笑いながら教えてくれた。



「そんな、気にしなくていいのに」

「いいの、私がプレゼントしたかっただけだから。……受け取ってくれる?」

「うん。ありがとう百合子さん。……中、見てもいい?」

「あ、でもほら、今はまだ仕事中だろうし……帰ったら、ゆっくり見た方がいいんじゃないかな?」

「……それもそうだね。後でのお楽しみにしておこうかな」

「うん。それじゃあ、私は帰るから」



ミッションは達成できたと満足した私は、一杯だけ頼んだノンアルのカクテルを飲み干して、会計を済ませてから出入り口の方に足を向ける。

黒瀬くんは最後まで「気をつけて帰ってね」とそのまなざしに心配の色を宿しながら、私を見送ってくれた。