逃げられるものならお好きにどうぞ。



***


黒瀬くんと、すっかり見慣れた夜道を並んで歩く。



「あの人、萌黄さんって……何だか不思議な人だね」

「……そうかな?」

「悪い人ではなさそうだけど……」

「まぁ、悪い奴ではないよ。……信用はできないけど」



黒瀬くんは何か思うところがあるのか、夜空を見上げて暫く黙っていたけど……緩く口角を持ち上げて、自然な動作で私の左手を握った。



「あの人のことは置いておいてさ。そんなことより……ねぇ百合子さん。俺、お願いがあるんだけど」

「お願い?」

「そう。百合子さんに、“好き”って言ってほしいなって」

「……ん?」



ニコニコ。そんな効果音が聞こえてきそうな笑顔を浮かべている黒瀬くん。

その表情はどこか期待しているようにも見えるし、私の反応を見て、何だか面白がっているようにも見える。