「あはは、ごめんごめん。佐藤はおれの偽名なんだよ。だからあのホテルにお姉さんを連れて行ったのは、おれで間違いないよ」
「……何のために私を?」
あの時このバーで声を掛けてきたのも、全部仕組まれていたことだったのだろう。何かしらの意図があってしたことなのだろうけど、それが私には、全く分からない。
黒瀬くんは確か、この男性は仕事関係で知り合った人なんだって言っていたけど……。
「んー、それはねぇ……」
含みのある笑みを浮かべて身を寄せてきた萌黄さんに、私も息をのんでその返答を待っていれば――視界が、黒一色に染められた。
「無視していいって言ったのに」
その言葉と同時に、視界がパッと明るくなった。
振り向けば、背後には黒瀬くんが立っている。どうやら掌で目元を覆い隠されていたらしい。
いつの間に着替えたのか、黒いエプロンを脱いだ黒瀬くんは私服姿になっていて、その身にはばっちりダウンジャケットまで羽織っている。



