逃げられるものならお好きにどうぞ。



「何で此処に居るの?」

「お客様に対してそれは酷くない?」

「帰れ」

「イヤだね」

「……百合子さん。この人とは基本関わらないでね。頭のやばい人だから」

「えぇ、本人前にしてそれ言う? ひどいなぁ」



「というか、椿の方がよっぽど…」と言葉を続けようとした男性だったが、黒瀬くんによって口を勢いよくふさがれて、ふごふごと声にならない声を漏らしている。



「えーっと……とりあえず、黒瀬くんの知り合いではあるんだよね?」



確かこの前、仕事絡みで知り合ったんだって言ってたはず。



「まぁ、知り合いっていうか……顔見知り、いや、顔見知り未満程度の関係だから。本当に、話しかけられても無視していいからね」



黒瀬くんはテーブル席のお客さんに呼ばれて、長髪の男性の耳元で何か囁いた後、私にはにこりと笑みを見せて行ってしまった。