辺りは依然としてワイワイとした賑やかさで満ちているのに、私と黒瀬くんの周りだけ、何ともいえない微妙な雰囲気が漂っている。
「……その、ごめんね、黒瀬くん。嫌な思いさせちゃって」
「何で百合子さんが謝るの? 悪いのはデートの邪魔してきたあいつでしょ?」
人混みから離れて、座れそうなスペースのある石段に腰を下ろした。
黒瀬くんが買ってきてくれたホットココアには雪だるまの形をしたマシュマロが浮かんでいて、見ているだけでも癒される。一口飲めば、何だか肩の力が抜けたような気がした。
「……私ね、前に黒瀬くんに言われた通り、男の子と付き合ったこととか……恋愛経験ってほとんどないんだ。さっきの……小林っていうんだけど、中高と一緒でね。何故かやたらと絡まれてたの。勝手に筆記用具とか使われたり、からかわれたり……嫌だって言っても止めてくれないし、周りの男子も、話してるだけで出来てるとか言ってからかってくるし……だから正直、あの頃から男子に苦手意識もあって」
「うん」
「あとはまぁ、小林の言う通り……私って地味だし、これといった取り柄もないし。特に面白みのない人間だから……自分に自信がないんだ。でもそんな自分を変えたくて、二十八歳になって上京してきたんだけど……結局、全然変われてないみたい」
結局小林にだって何も言い返せなくて、言うだけ無駄だって諦めた。逃げを選択しようとした。
――あの頃と同じで、何も変われてない。
私の話を黙って聞いてくれていた黒瀬くんが、「俺は……」と口を開いた。
漏れた吐息が、白く染まって宙に溶けていく。



