逃げられるものならお好きにどうぞ。



「ま、待って黒瀬くん。お金なら私が……」



バッグから財布を取り出そうとすれば、掌をやんわり掴まれて止められてしまった。

前にも同じようなことがあったなぁと思いながら、黒瀬くんの顔を見上げる。



「俺さ、お揃いってやつ、してみたかったんだよね」



目元を細めて笑った黒瀬くんは、店主から受け取った白いベアが入った袋を私に手渡してくれる。



「はい。受け取ってくれる?」

「うん。……ありがとう、黒瀬くん。大切にするね」



素直にお礼を伝えれば、黒瀬くんは「どういたしまして」と嬉しそうに笑う。


次はどうしようかと話していた中、鼓膜を揺らした声は、どこか聞いたことのある――もう二度と聞きたくないと思っていた声に、よく似ていた。




「……え? もしかして、百合子か?」




背後から聞こえる声は、私に向けて掛けられた言葉だろう。


――何で。こんな所にいるはず、ないのに。



どうか人違いでありますように。

そんな祈りにも似た気持ちを込めて、ゆっくりと振り返る。


だけど、その祈りが通じることはなくて――もう五年以上は顔を合わせることのなかった地元の同級生が、驚いた顔をしてこちらを見つめていた。